「内なる声を聞くことが、人間の最たる能力である。」

言葉があるから私たちは何かを考えることができます。ではその言葉をどのように身につけているかといえば、聞いているのです。本を開くとき、電車に乗るとき、そして眠りにつくとき。あらゆる瞬間に私たちはこの“声”のそばにいる。
むしろそこに人間の実体があると言っても過言ではないくらい、私たちは思考そのものです。つまり「聞く」ことには外界の音ばかりでなく、頭の中の声を聞くことまで含まれています。私たちが普段している会話も、この内なる声を他者に置き換えて行っているに過ぎません。
対話とは心の言葉を聞くことです。そこに自己と他者の区別はありません。他者のことばが自分のものとして聞こえること。それが人間に与えられた能力、すなわち聞く力を意味します。

「聞く力」5つの定義

  • 1. 人間が自己を理解するために必要な交感力

    私たちのコミュニケーションは「話す」ことではなく、耳を傾けることから始まります。人のことばを聞くことによって自分に対する理解を深めていくことができるのです。

  • 2. 自己と他者の領域をこえて行われる第六感

    人の話を聞くことは、自分のことばを「聞く」こと。この内省機能の存在が傾聴という行為を可能にしています。共感と呼ばれる能力も同じ原理のもとに働いています。

  • 3. 精神を集中して可能となる想念のはたらき

    音楽を聴くことと、人の話に耳を傾けることは本質的に違います。全神経を集中させながら相手の言葉の中に英知を見つけ出す。聞くことは想念による力です。

  • 4. ことばになる前の概念をとらえる抽象能力

    真実に近いものは言葉にすることができない。このことを私たちは感覚的に知っています。考えるより以前の「思う」ことそのもの。この未分の領域に私たちの声は存在します。

  • 5. 個人それぞれの精神世界の基盤となっている

    人間は一人ひとり、心の声による独自の精神世界を持っています。聞く力とは客観的な能力というよりも、私たちの世界をつくる基盤そのものと言えそうです。